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第8話(その1) 告白

NHK版では、今回の【scene8-1.山頂のレストラン(夜)】は、第7話の最後となっていて、【8-2】から【8-9】まではそっくりカットされています。そのため第8話は【scene8-10.山頂のレストランの中(朝)】からとなっています。次回(その2)に、それらカットシーンを取り上げ、NHK版の第8話はそれ以降を予定しています。
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ユジンは間違いなく、ミニョンに心を開き始めていました。ミニョンの包み込むようなやさしさに、十年前に逃げ込んだ仄暗い部屋から、ユジンはおずおずと足を踏みだそうとしています。何よりもユジンがこれまで他の誰にも多くを語らなかった、チュンサンとの想い出を、ミニョンには話し始めているのがその証拠でした。そして、ミニョンのことばには素直に耳を傾けることのできるユジンがいました。春川の湖で、ミニョンがユジンに心を込めて語りかけた言葉は、不思議なくらいユジンの心に染み入りました。それは明らかにユジンの心に、変化の兆しをもたらしたのです。

しかし、ユジンは同時に、ミニョンと二人でいることが何だかひどく落ち着かない気持ちにもなっています。理由(わけ)もなく、ミニョンに惹かれていく自分が少し怖くなっています。ミニョンのさりげない言動に思わずチュンサンを重ねてしまうことも、最近何回もありました。自分はミニョンをチュンサンとまた錯覚してしまうかもしれない…。苦い経験をしているだけに、そうした不安は拭いきれません。無論、サンヒョクのこともあります。ユジンは、なんといっても彼と婚約しているのです。

ミニョンが暖炉の前に腰掛け、眠っています。ユジンは近づき、静かに彼の寝顔を見下ろします。ミニョンは、あいかわらず眠ったままです。その傍らに腰を下ろします。ミニョンは目を開きません。ユジンは、そっとミニョンの顔を覗きこみます。間近に見る眼鏡をかけたまま眠るミニョン。ユジンの中に、湧き上がるものがありました。ユジンは、ゆっくり手を伸ばすと、ミニョンの眼鏡をはずします。眼鏡をはずしたミニョンは、ユジンにはチュンサンでした。じっと目を凝らすようにして、その顔をユジンは見つめます。

眼鏡をとったミニョンは、本当にチュンサンそっくりなのです。やおら”チュンサン”が目を開きます。驚くように見入るユジン。が、すぐに我に返り、「眼鏡をはずしてあげようと思って…疲れてしまいそうだから」と言い訳をしながら、眼鏡をミニョンに渡し、立ち上がります。と、

いつまで死んだ人のことを思って生きていくつもりですか?

ユジンの心を見透かすミニョンの言葉に、足が止まります。「その人を忘れるのは、そんなに難しいことですか?」とミニョンは言葉を重ねます。ユジンは押し黙ったままその場を離れようとします。

ミニョン: ユジンさん、一つだけ聞かせて下さい。その人がまだ生きていたとしたら…今もユジンさんと愛し合っていたでしょうか?

まだ生きていたとしたら…というのは仮定の話でしかありませんが、ユジンの心のどこかにもチュンサンの死を認めたくないという思いは残っています。自分のチュンサンへの愛に疑いはありません。しかし、生きていないのだから、今それを確かめる術は確かに無いのです。

「…イ・ミニョンさん!」とユジンは抗議の声をあげます。しかしミニョンは続けます。「その人が死んでしまったから、もうこの世に存在しないから、かえって執着してるんじゃありませんか?」

ミニョンの指摘は、ある面では正鵠を射たものでした。チュンサンに抱くユジンの愛は、彼の死によって至高のものとなった側面は否定できません。しかし、それを執着だといわれる筋合いはないのです。

ユジン: (傷ついて)もうやめてください。イ・ミニョンさんが関わることではないと思います
ミニョン: いいえ。関わりたいんです

ミニョンの心の中で、ユジンへの思いが、はっきりとした”かたち”をとりたがっていました。彼は、ユジンに対して傍観者でもなければ、まして高みに立って批判しているのでもありません。自分の弱さをさらけ出し、彼は訴えます。

ミニョン: 僕のこと、誰かを心から愛したことなどないだろうって言いましたよね?そうです。僕には愛とはなんなのかよくわからない。でも僕に言わせれば、その死んだ人をユジンさんが思いつづけてるのも愛じゃありません

ミニョンは、自分の心の底から訴えかけます。感情が昂ぶり、「執着で、未練で、自己憐憫」だとまで叫びます。だからもっと現実を見て…と。それは、僕を見て…と言っていることでもありました。

ミニョンの言葉は、ユジンにことごとく突き刺さっていきます。ミニョンのユジンに対する強い思いが、言葉に込められているからです。必死に耐えながら、ユジンは悲鳴に似た叫び声を上げます。

ユジン: やめてください!お願いだからやめて下さい!!!どうして私にそんなことを言うんですか?どうしてなんですか!!!
ミニョン: あなたが好きだから!

ユジンは、不意を討たれたかのように、立ち尽くしミニョンを見つめます。ミニョンにとっても、それは似たようなところがありました。思わず口をついてでた言葉…。しかし、ミニョンは確信します。自分の思いを確かめるように、ゆっくりとユジンに想いを告げます。

ミニョン: 僕が…僕があなたを愛しているから

第8話(その1) 告白_a0019494_19451964.jpg

by ulom | 2004-08-10 19:46 | 第8話 疑惑
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