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第6話(その1) 失望

ミニョンが唐突に”先輩”のキム次長に尋ねます【scene6-7.ミニョンのオフィス(午前)】。

ミニョン: 僕ってどんな人間ですか?

第4話から見てきた、笑顔の似合う”パーフェクト”なミニョンからは、想像すらできない言葉を、いま彼は口にします。さすがのキム次長も即答できないでいると、

ミニョン: なんとなく、自分がどんな人間なのかと思って。他人に気を遣うようなタイプじゃありませんよね?
キム次長: そうだな。イ・ミニョンは他人に関心がないからな。イ・ミニョンの関心は、そうだな、石、木、コンクリート、うーん…おお、ひょっとしてニューフェイスか?

そこには茶化しもいくぶん入っていますが、キム次長のミニョンに対する見方がよく表れています。そしてそれはミニョンの二面性を簡潔にとらえてもいます。ミニョンがユジンと出会った最初の頃、食事の誘いをにべもなく断るユジンに、彼は次のように言いました【scene4-12】。

(食事をともにすることが、人と親しくなる一番の方法だと述べたあと)
ミニョン: だからといって誤解しないでください。僕はとても身勝手な人間です。ユジンさんと仕事して、得られるものはすべて横取りするつもりです。

彼の仕事ぶりには、輝かしい実績に裏づけされた自信がみなぎっています。彼の仕事上における時として氷のような”冷たさ”は、図面を何度も書き直させられたユジンも実感するところだったでしょう。しかしあの時、ユジンはミニョンの誘いをそれでも断ったのでした。

ミニョンのもう一つの側面は、キム次長が彼のことを”プレーボーイ”とか”その道のプロ”とか呼んでいるように、特に女性に対するきめの細かい気配りができる”やさしさ”です。彼は仕事が大変だとぼやくチェリンにこんなことを言っています【scene4-15】。「(冗談っぽく)なにがたいへんなんだ?女性の服を選んで着せてあげる…。僕だったら楽しんで仕事すると思うけどな」。黙っていても、彼の周りには女性が集まってきました。

しかしこの点でもユジンは他の女性とは違っていました。スキー場に下見に行った際、ユジンが個人的なことを話しかけてこないことについて、冗談めかして「僕のことを気にかけない女性は初めてだから、ちょっと馴染めないな」【scene4-29】とミニョンは言っています。

ユジンに対して、これまでの自信を持っていた自分のやり方が通じない。そのことがユジンを不思議で魅力ある女性にもしていました。しかしチェリンに吹き込まれた”嘘”と、それと合致するかのようなユジンの行動を眼にすることで彼は混乱し始めます。「全然そんなふうに見えないのに、どうもおかしな行動をする」ユジンのことが、ミニョンの頭から離れなくなっていました。そして、ついには昨夜のような、ミニョンには全く理解不能な行動に出たユジン…。

キム次長: おまえ、チェリンさん以外の女に興味が湧いたのか?
ミニョン: 興味じゃなくて…
キム次長: じゃなかったらなんだよ?
ミニョン: (力なく笑って)ただちょっとがっかりしたことがあって…
キム次長: (おもしろがって続ける)がっかり?おい、がっかりってことはもっと深刻な話じゃないか。少なくとも好意がないとがっかりなんてしないもんだろ。誰だ?誰なんだ?

この「ちょっとがっかりしたこと」という言葉は、実は二通りの解釈ができるように思います。一つは上のキム次長のように、相手の女性つまりユジンに失望したというもの。昨夜の出来事は、チェリンの言葉を鵜呑みにしたミニョンにとっては、自分を”誘惑”するための茶番劇でしかないわけですから、その劇のヒロイン・ユジンは”失望”の対象となるはずです。

しかしことはそのように単純ではありませんでした。「これはあなたが望んだことでしょう?」と詰め寄ったミニョンの頬を、ユジンは涙をこらえて平手打ちしたのです。その真剣な眼差しに、ミニョンは圧倒され、そこに立ち尽くすしかありませんでした。

僕ってどんな人間ですか?

これまで何の疑いも持たなかった自分に向けての言葉であることを思うとき、がっかりしたのはミニョン自身だと解することもできます。

現地入りを明日に控え、最終チェックの会議が開かれました。ユジンは何事もなかったかのように、取り組んでいます。ミニョンはずっと彼女のことが気がかりです。会議が終わり、ミニョンはユジンを呼び止めます【scene6-10.会議室(午前)】。二人の間に緊張感が走ります。ユジンが「酔って、理事を他の人と間違えてしまった」ことを詫びるのに対して、ミニョンは「泥酔していたにしては真剣そのもの」だったし、それほど飲んでもいなかったんじゃないか…。あたかも自分がミニョンを”誘惑”したかのような口ぶりに、ユジンは我慢なりません。

ユジン: 待ってください!私、そんな非常識な人間じゃありません。婚約もしています。それにチェリンは私の友達なのに、どうしてそんなひどいことが…
ミニョン: (さえぎって)そうですよね。なぜあんなことになったのか、本当に不思議ですね
第6話(その1) 失望_a0019494_172046.jpg

「私が好きだった人まで好きになる」とチェリンに聞かされ思い込んだミニョン。ユジンはミニョンを睨みつけていましたが、怒りを飲み込みます。「申し訳ありませんでした。… 仕事以外でこんなふうにぶつかることがなければうれしいです」

ユジンは、ミニョンの誤解は自分の過失によるものだと言い聞かせています。言い訳したりすることは、なんといっても彼女のいちばん大切な宝物チュンサンを汚すことだという思いが、そこにはあります。だから、ぐっとこらえます。ここでもユジンの真剣さが、ミニョンを圧倒しました。

ミニョンは、ひとり迷路の中に取り残されています。
by ulom | 2004-07-14 17:22 | 第6話 忘却
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